旅行や観光、ホテルなどホスピタリティの業界は、国内・海外ともに、女性が多く活躍する分野だ。一方、女性がこの業界で管理職に就く割合は非常に低い。男性に比べて低い賃金、スキルの低い仕事内容、非公式の仕事が多いといった問題も長年抱える。
この旅行・観光業界で働く女性の現状をはじめ、業界での女性の活躍を推進する組織や取り組み、さらに女性が率いる諸外国の旅行会社や諸団体などを紹介する。
UNWTOが指摘する女性の活躍を妨げる問題点
世界のほとんどの地域において、旅行・観光業界で女性が多く働き、活躍している。観光分野における専門機関、国連世界観光機関/UNWTO(https://www.unwto.org/)の調査によると、旅行やホスピタリティなどの分野で働く男女比の割合で、女性が54%を占めているという。
一方で、高いスキルを必要としない、企業や団体などで地位が低い仕事に女性が集中して従事している傾向があるほか、昨今の新型コロナウイルスの流行によって経済的に多大なダメージを受けたこの業界で、男性よりも女性のほうが雇用面などで深刻な影響を及ぼしていることも指摘する。
コロナ前の2019年12月、UNTWOはドイツ開発庁や世界銀行などと協力し、「観光における女性に関するグローバルレポート」を発表した。このレポートで(男性と比べての)同一賃金の促進、セクハラへの取り組み、女性が高水準で雇用されるための採用などを提起。国家レベルでジェンダーに配慮した法的およびマクロ経済政策の実施、男女平等の業務教育や適切な支援、より広いコミュニティとのつながりなどが旅行・観光業界における女性の経済的地位向上を高めるとしている。これらの問題は、コロナ前もコロナ後も変わっていない。
「Women in Travel」旅行業界の女性の活躍を支援する活動
海外を中心に、旅行・観光業界で働く女性の活躍を支援する組織が数多く存在するのに加え、オンラインを含めたイベントも開催されている。
まず、イギリスのWomen in Travel/CIC(https://www.womenintravelcic.com/)を紹介する。
世界の旅行、観光、ホスピタリティ業界とそのサプライヤーを活用し、女性に経済的および個々の可能性を高めるのを実現する機会を提供することを目的とした団体。2014年、ロンドンで開催されたワールドトラベルマーケットのメインイベントで、ジェンダーに焦点を当てたプラットフォームとして誕生し、2017年に法人化された。旅行や観光、ホスピタリティの仕事を離れた女性が再び戻れるのを支援するサービスも実施する。創業者のアレッサンドラ・アロンソは、ジェンダー分野での先駆者的存在であり、過去20年この業界の女性を支援し続けるほか、メディアやイベントなどでその活躍ぶりが事あるごとに取り上げられてきた。
そのCICも関わるフォーラムが、The International Women in Travel & Tourism Forum/ IWTTF(https://iwttf.com/ 国際女性旅行観光フォーラム)だ。世界中で働く経験豊かなリーダーから新進気鋭の女性たちまでが集まり、ジェンダーの多様性やその受け入れなどについて学ぶ。2021年5月に、オンライン上で1週間にわたってフォーラムが行われ、専門家から学んだり、各人の専門知識や経験を共有したりすることなどを目指す。
旅行テクノロジーやデジタル旅行業界で働く女性の組織も
WOMEN IN TRAVEL THRIVE(https://womenintravelthrive.com/)は、新型コロナが女性のキャリアアップに与える影響を軽減することを目的とし、旅行・観光業界の女性グループによって設立された。主な目的は、ホスピタリティ業界全体で女性同士の人脈を作り、その道を切り開くこと。2021年1月に初めてのイベントが開催され、旅行・観光業界全体で500人以上が参加したという。
また、Women in Travel Tech/WiTT(https://www.womenintraveltech.com/)は、旅行テクノロジー分野における女性リーダーがそれぞれの戦略を共有し、専門家同士でアイデアを探り、公平にフィードバックしながら、同業種内でのフォーラム立ち上げを目指す。この分野で働く女性リーダーの地位を格上げし、企業の育成、支援することを使命とする集まりだ。
Women Leading Travel & Hospitality (https://womenleadingtravelandhospitality.com/)は、旅行業界の女性エグゼクティブを繋ぐ会員制のコミュニティだ。CEOやディレクターといった業界をリードする立場にある女性達が結束、情報を共有し、お互いを高め合うというミッションを持っている。
会員になるとメンバー間のネットワーキング、イベント参加、リサーチやビデオなど独自のコンテンツやリソースを利用する事ができる。
女性の活躍支援はアメリカが盛ん、イベントも開催
そして、Women in Travel and Tourism, International/Witti(http://womenintravelandtourism.com/)は、全米旅行協会の元リサーチ担当副会長などを歴任したローラ・マンダラによって設立された団体。旅行や観光でキャリアを積む専門職の女性たちのネットワークを構築することで、女性が成功を収めるのを支援する一方、世界およびアメリカ国内で国際的な観光協会と協力し、会議やイベントなどを随時開催する。アメリカン航空、フロリダやカリフォルニアの観光協会で働く女性幹部もメンバーとなっている。
Women in Tourism & Hospitality/WITH(http://www.withorg.com/)は、北米を中心にネットワーク拡大を進め、2030年までに10億人の女性によるグローバルネットワークを構築することを目指す組織。オンラインやイベントでの教育、最高レベルの法的基盤の確立、資本や貿易といった金融面、ジェンダー格差をなくすためのキャンプイベントの参加、雇用の創出や起業家精神などを学ぶプログラムなどを提供する。
2014年に始まったWomen in Travel Summit/WITS(https://witsummit.com/)も、国際イベント。旅行業界におけるトップマーケティングのサミットで、クリエイティブな起業家、インフルエンサー、DMOなどの業界人が一堂に会し、女性やジェンダーの多様なコミュニティを支援し、将来の改革について話し合い、コラボレーションを構築しつつ、世界中の旅行を変えるのを目的とする。すべてのイベントで、海外展開する旅行会社から小規模の新興企業まで数百人が集まっているという。
日本にもある、旅行業で働く女性が集まる団体
日本にも、旅行・観光業界で働く女性を支援する団体がある。
日本旅行業女性の会(http://jp-jwtc.org/)で、1980年に発足した旅行関連産業で働く女性組織だ。旅行に関するさまざまな専門家を招き、時にJATA(日本旅行業界)と共同開催する勉強会、コロナ前までは観光地の視察を兼ねての親睦会などを随時行っていた。現在はオンラインでの交流会が中心。女性ならではの視点を生かして提言しつつ、旅行文化の向上に寄与することを目的としている。